プロローグ

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 酔った夫曰く、「新品みたいな締まり」だったそう。  私は片手で頬を押さえ、空いている手で目の前に散らばる正方形のビニールを人差し指で動かして円を作る。  どうしてそうしたのかなんて、わからない。  どうでもいい。  そして、頬から離した手で膝の横に置いた細いまち針を持つ。  円の一番遠くのビニールを指さし、震える身体で声を絞り出す。 「ど~れ~に~――」  時計回りにビニールを指さしていく。 「――か~み~さ~ま~の~い~う~と~お~り~......」  歌を歌ったことにも、意味はない。  無意識に意味のないことをしてしまうほど、私は正常ではないのだろう。  そんなことを客観的に思った自分に、クスリと笑ってしまう。  とにかく、最後に指さしたビニールを手に取ると、まち針を中心に突き刺した。 「パパ」  ビニールを円の中心に置き、時計回りに次のビニールを取る。 「ママ」  そのまま置いて、次のを取る。 「幸大(こうだい)」  そのまま置いて、次のを取る。 「パパ」  針を刺す。  そんなことを繰り返していった。  最後に愛しい我が子の名前を呼び、ビニールがすべて中心に集められた。  針を刺したのは九個のうち三個。  確率は三分の一。  ふふっと笑みがこぼれた。  身震いして、冷えた身体を自分で抱きしめる。  穴に気づくかもしれない。  着けて破けるかもしれない。  破けなくても妊娠しないかもしれない。  でも、もし妊娠したら――――。 「神様は誰を選ぶのかしらね?」  腕に跡が残るほど強く、私は私を抱きしめた。
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