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飲みにも出るくせに、家にもビールを常備しなければならず、それも生ビールでなければ怒り出すなんてことがなければなお良い。
そう思えば、私が老けているのはひとえに、全て、夫のせいではないだろうか。
たとえそうでなくても、そう思わなければ苦しい。
私と夫の年の差は四歳。
三十三歳の私は一体いくつに見られるのか。
『あ、明日は私、ダメね』
ぼうっとしていた私は、女の声にハッとした。
いけない。
ちゃんと聞かないと、どこで大事なことを話しているかわからない。
何度も聞き返すなんて、嫌だ。
『友達の誕生日パーティーがあるの』
『セレブの友達?』
『ううん。クラブ貸切ってやるの』
『やっぱセレブじゃねーか』
二人の笑い声。それから、キスらしい水音。
『リナも誕生日にはクラブ貸切んの?』
『クラブはクラブでもホストクラブかな。去年はね』
『で、札束ばらまくんだ』
『まさか』
笑い声。
『十二月十日は、プレゼントに朝までイカしてやんよ』
『しょっぼい誕プレ。つーか、その日は会えないし』
『じゃ、前の日』
『えぇー......。どうしよっかなぁ』
フンッと鼻で笑いながら煙を吐き、ごそごそと布擦れの音がする。
『あ......んっ』
また、始まった。
毎晩、日付が変わってからの帰宅になるのも当然だ。
私はスマホにメモをした。
【リナ 十二/十】
パスコードは六桁。
だが、弘毅さんが愛人の生まれ年まで覚えて、パスコードに使っているだろうか。
私の生まれ年から前を組み合わせて何度か試すつもりで、その夜、お風呂に入っている夫のスマホに触れた。
そして、あっさりロックは解除できた。
パスコードが四桁だったから。
こういうところは面倒くさがりで良かった。
私はSNSで見た通りにメッセージアプリのトーク履歴を私のスマホに転送した。
ここまでは順調だ。
なのに、私の心は底なし沼に沈みかけているように、絶望していた。
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