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後頭部の寝癖がわからなくなるほど、髪が爆発する。
私は笑って、その髪を手櫛で整えた。背伸びをして。
輝は気持ちよさそうに身を屈める。
犬や猫のようだ。
「今日、仕事は?」
「休み。昨日、徹夜で張り込んでたから」
「じゃあ、寝てないの?」
「ん。幸大帰って来るまで寝てていい?」
「うん。ごめんね、本当に」
「いいよ、これくらい。久しぶりに姉ちゃんの飯、食いたかったし。すぐ出れる?」
「あ、いいよ。バスで行くから」
「いいって。行こう」
輝は優しい。
初めて会った時は警戒心むき出しで、指先が触れただけで毛を逆立てるようにして全身で拒絶していたのに。
輝の真っ赤な軽自動車に乗って二十分。数か月ぶりに夫の実家にやって来た。
車の免許は持っているが、夫が愛車に乗られるのを嫌がり、緊急事態の時以外は運転しない。
だから、スーパーへも自転車か徒歩だし、こうして夫の実家に来るのもいつもはバス。
「帰りも迎えに来るから」
「ありがとう」
輝の車の後部座席には、ジュニアシートが置かれている。チャイルドシートとは違って置くだけだから、最近は積みっぱなしだ。
仕事でも、チャイルドシートやジュニアシートを積んだ車で張り込みしているとは思われないから、都合がいいらしい。
応答がないとわかっているが、インターフォンを押す。それから、鍵を差し込んだ。
「おはようございます」
「朱里さん?」
お義母さんの声。
「はい」
「もうっ! 遅いわ!」
「すみません」
私は声のする和室のドアを開けた。
畳に布団を敷いて、義母は横になっていた。
「手を貸してちょうだい。トイレに行きたいの」
「はい」
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