2.確信

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 私は弘毅さんに電話をかけた。  何度呼び出しても、出ない。  怖い。  もう一度かける。  今度は五度目でコール音が途切れた。 『ママ?』 「幸大!? どこにいるの?」 『もうすぐ帰るって言っとけ』  弘毅さんの声。どうやら運転中らしい。 『もうすぐ帰るよ』 「うん。気を付けてね?」  電話を切った瞬間、涙が溢れた。  怖かった。  本当に、怖かった。  夫と子供が出かけて、ここまで心配する妻が、他にいるのだろうか。  私はスマホを胸に握りしめて、浅く早い呼吸を整えた。  息苦しいのは、恐怖が引きずっているからか、体調不良のせいか。  とにかく、幸大が帰って来るまでに落ち着かなければ。  だが、手の中のスマホが悲鳴のような電子音を発し、驚いてまた鼓動が早くなった。  輝からの着信。 「もしもしっ」 『姉ちゃん?』 「うん。どうしたの?」 『いや、この前、ちょっと咳してたろ? 大丈夫か?』 「輝......」  ホッとした。  絶対的に信頼できる弟の声に、心底安心した。 『姉ちゃん?』 「大丈夫よ」 『やっぱ、風邪ひいたんだろ。声が変だ』 「だいぶ良くなったの」 『......幸大は?』 「え?」 『幸大はどうしてる? 元気か?』 「うん、元気だよ。今は......出かけてるけど」 『どこに? 飯の時間だろ』  輝の声が、少し焦って聞こえる。  気のせいだろうか。 「私が寝てたから、弘毅さんが幸大を連れて遊びに出てたの。もう帰って来る」 『そ......っか』 「うん。どうかした?」 『いや......』  歯切れが悪い。 「輝? 何かあるならちゃんと言って」 『いや、さっき......十五分くらい前、幸大を見かけた気がしたんだ』 「どこで?」 『それが――』  ガチャッと玄関の鍵が開く音がして、私は小さく息を呑んだ。
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