2.確信

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 きっと朝から裏返しだったけど、私が気づかなかったんだ。  お風呂に入る時に気づいて、きっと怒られる。  そうだ。  そうに決まってる。 「ママ?」 「ん......?」  幸大が足から離れて、私を見上げる。 「まだ、具合悪い?」 「ううん?」 「ピザ、食べれる?」 「うん」 「ポテトもあるよ」 「ありがとう」  息子の頭を撫でた。  本当は、食欲なんてない。  なくなった。  頭が痛い。身体が重い。息苦しい。吐き気がする。  泥のような黒くて重い粘りのある液体が、体の中をゆっくりと流れているようだ。  幸大の小さな背中を道しるべに、感覚のない足を動かす。  鉛を飲み込むようにピザを食べた。  無理やり胃に押し込んで、吐かないように息を止める。  裏返しのTシャツと、その襟から見える赤い痣が、嫌でも目に入る。  じっと見ていたら、弘毅さんが気づいた。 「なに?」 「ううん」 「気になるんだけど」  言わない方がいい。  どうせ私が怒られる。  裏返しに畳んでおいたんじゃないかって。  絶対、怒られる。  自分にそう言い聞かせながら、唇が勝手に言葉を発する。 「Tシャツ......裏返し?」 「は!?」  弘毅さんが襟を引っ張って見る。 「うわっ、マジか」  怒られる。 「くそ」  怒られる。 「はず......。幸大、もういいのか?」  ............。 「最後の一枚食っていいか」 「うん......」  私は裏返しのTシャツから目を逸らした。  弘毅さんが最後のピザを手で掴む。  箱に残されたのは、幸大が食べやすいようにカットするために使ったピザカッター。  それをじっと見る。  ピザカッター(これ)で弘毅さんの喉、切り裂けるかしら......。  ふと、そんなことを考えた。
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