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「よく......こんなことできたな」
ボールペン型のボイスレコーダーを握りしめ、言った。
姉ちゃんは「うん。私もそう思う」と言った。
姉ちゃんを責めたわけじゃない。
姉ちゃんは盗聴を思いつく人でも、軽々しくやってみようと思う人でもない。
穏やかで争いを好まない姉ちゃんだ。バレたら何を言われるか、されるかと思えば怖かったろう。
それでも、じっとはしていられない、してちゃいけないと思ったのは、幸大のため。
姉ちゃんはいつもそうだ。
自分じゃない誰かのために頑張る。
以前はその対象が俺だったが、今は幸大。
「なんで、すぐに俺に言わないんだよ......」
こんなものを買う前に言ってくれたら、姉ちゃんにここまで辛い現実を突きつけたりしなかった。
「言ったら別れろって言うでしょ?」
「当たり前だろ!」
俺は姉ちゃんを抱きしめた。
姉ちゃんも俺を抱きしめ返す。
昔から、こうしてきた。
どちらかが辛い時、どちらも寂しい時、抱き合って、一人じゃないと確かめた。
初めてそうしてから、ずっと。
俺は、昔姉ちゃんが俺にそうしてくれたように、姉ちゃんの後頭部を撫でた。
「俺が確かな証拠を集めるから、離婚しろよ」
「でも――」
「――慰謝料と養育費をしっかり取って――」
「――そんなお金、ないよ」
「え?」
「慰謝料なんてもらえるだけ、うちにはお金ない」
「だったらなおさら離婚しろ。それとも、まだ好きか?」
「え......?」
こうして抱きしめていなければ聞こえないくらい小さな声。
腕を緩め、姉ちゃんの顔を覗き込む。
「旦那のこと、好きか?」
「そんなこと――っ」
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