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姉ちゃんの瞳に涙の膜が張り、同時に頬が小さく痙攣し、唇に力が入る。
そっと彼女の頬を両手ですくい上げると、目尻から雫がこぼれた。俺の親指を濡らす。
俺の大事な姉ちゃん。たった一人の家族。
その姉ちゃんが泣いている。
我慢強くて、滅多に泣かない姉ちゃんが、泣いている。
「自分の親の世話をしてくれた嫁が寝込んでるってのに、子供連れて愛人の家に行くような男だぞ!?」
こんな風に傷つけられて虐げられても、姉ちゃんはきっと自分じゃ決断できない。
親が離婚することで子供がどんな思いをするか、知っているから。
だから、俺が背中を押す。
残酷なほど、強く。
「また同じことがあったら? 幸大が大きくなって、父親の裏切りの意味を知ったら?」
「輝......」
瞬きするたびに、俺の手と姉ちゃんの頬の間に雫が溜まる。
「幸大のためだって言うなら、子犬の声の正体を知らないうちがいいんじゃないのか?」
ゆっくりを目を閉じ、眉をひそめる姉ちゃんは、きっともうわかっている。
どうしたらいいのか。
どうするべきなのか。
どうしたいのか。
「幸大には姉ちゃんがいる。俺もいる。俺が、二人を守る」
涙に濡れて重そうな瞼がゆっくり上がる。
姉ちゃんの手が俺の手に重なり、握り、そっと彼女の頬から離す。
姉ちゃんの頬も俺の手も、涙でべちゃべちゃ。
「輝は......、自分の幸せを見つけなきゃ」
姉ちゃんが結婚した時、同じことを言われた。
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