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あれから、もう九年。
二十四歳だった姉ちゃんは三十三歳、十八歳だった俺は二十七歳になった。
姉ちゃんの苦渋の決断を受け入れられず、捨てられたんだと勝手にいじけて夜の街をフラフラしていた俺とは、もう違う。
自分の幸せが何かくらい、わかってる。
「俺の幸せは、姉ちゃんだよ」
「輝」
「姉ちゃん以外、何もない」
もう、当の昔に俺の方が大きくなった。こうして抱きしめたら、その差がよくわかる。
姉の手を握り返せるほど大きくなかった手、必死に伸ばしても姉の背中にまで回らなかった腕、背伸びして手を伸ばしても姉の顔にも触れられなかった背丈。
早く大きくなりたかった。
姉ちゃんを守れるように、早く。
ようやく、その時がきた。
「頷いて。離婚したいって、するって言って。そしたら、俺が、どんなことをしても離婚させる。あの男が何を言っても、絶対」
この世でたった一人、俺の宝物。
姉ちゃんがいなきゃ、とっくに消えてた命。
頼むから、俺に守らせて。
「したい......」
絞り出すようなか細く、震えた声。
いつも優しくて、自分だって怖い癖に俺を背に隠して守ってくれた姉を思い出す。
あの時だってきっと、こうして泣きたかったはずだ。
「離婚、したい」
今度は俺が守る。
「うん。しよう、離婚。姉ちゃんと幸大が幸せになるために」
俺の肩に額を押し付けるように、姉ちゃんが頷いた。
許さない。
ただ、浮気の証拠を突き付けて離婚するだけなんて、甘すぎる。
「俺に任せて。姉ちゃんは、幸大のことだけ考えて」
俺の姉ちゃんを傷つけたこと、後悔させてやる――!
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