3.接触

9/14

3749人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
「今度、来てよ」 「気が向いたら......ね?」  目を細め、思わせぶりに言う。  確かに、遊び慣れている。 「おいっ! お前――」  肩をグイッと掴まれ、ふらつく足に力を入れる。 「――なにやって――」  振り返った俺を見て、もうひとりのターゲット、桧川(ひかわ)弘毅が目を丸くする。 「――あ、お義兄さん」 「輝......くん!?」  覚えていたとは意外だ。いや、俺が先に呼んだからわかっただけか。 「久しぶりですね」 「ああ......」  弘毅の視線が、里菜に移り、すぐに俺に戻ってきた。  肩を掴んでいた手が離れる。 「こんなところで何やってるんだ?」 「美人のお姉さんをナンパ」 「ナンパ?」 「そ。店に寄ってってくれないかなぁ、って。あれ? もしかして、お姉さんの待ち合わせの相手ってお義兄さん?」 「ま、まさか! 俺は、彼女がしつこい男に困ってるように見えたから、その――」 「――優しいね、お義兄さん。カッコいい!」  軽い調子でそう言うと、弘毅の手でわずかに乱れたコートとジャケットの襟を正す。 「じゃ、俺行くね。手ぶらじゃ店に戻れないし」 「店って......まだホストをしてるのか?」 「犬の散歩じゃ生活できなくってさ。あ、姉ちゃんには内緒ね。説教されんのメンドーだし」 「......ああ」 「その代わり、俺も内緒にしとくから」  俺は唇の前で人差し指を立てて言った。  秘密のある人間らしく、弘毅はわかりやすく動揺して見せる。 「はっ!? なにを――」 「――お義兄さんがこんなトコで遊んでること」 「こんなトコって――」  立てた人差し指を弘毅に向けると、つられて振り返った。  ピンクにライトアップされた看板は、イメクラのもの。 「――ちがっ――!」 「――じゃーね!」
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3749人が本棚に入れています
本棚に追加