3.接触

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 指をクイッと曲げながらそう言って、くるりと身体を反転させる。  そして、素早くワイヤレスイヤホンを耳に入れた。 『ね! 今の誰? 弘毅の弟!?』  さすがにこの近さだと感度がいい。里菜の声がはっきりと聞こえる。 『違う。嫁の弟』 『マジで!? 目、青かったよ?』 『血は繋がってない。嫁は弟とは似つかない地味女だ』  反射的にギリッと奥歯を噛む。 『つーか、行こうぜ。見られたらマズいから、先に行け。俺はしばらく離れて歩くから』 『はぁ? ビビッてんの?』 『うるせーよ。ほら、行け』 『こんなことならあの子と行けば良かった』 『お前――』 『――あ~あ。お腹空いたぁ』  女の子を物色する振りをして視線を向けると、もう里菜の姿は見えない。弘毅が不自然なほどゆっくりと遠ざかって行く。 『ったく、メンドくせぇな』  最後に聞こえたのは、弘毅の吐き捨てるような言葉。  ガサガサガサッと雑音しか聞こえなくなって、俺はイヤホンを外した。  ボールペン型のボイスレコーダーに細工をして発信器を仕込んだのだが、リアルタイムで盗聴できるのはせいぜい五十メートル。  今日のところはこれでいい。  里菜の俺への興味が確認できたから。  二人の会話はすべて、録音されている。  姉ちゃんが定期的に弘毅のメッセージアプリの履歴のコピーも取っている。  証拠は十分だが、どれも表立っては出せない。  それに、俺は証拠を突き付けて離婚を迫るだけでは足りない。  姉ちゃんを侮辱した。  あんな下品な女より、姉ちゃんの方がずっといい女なのに。
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