3.接触

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 俺にとって、この世の中に姉ちゃん以上の女はいない。  学生の頃に友達にそう言ったら、本気で引かれた。 『ヤバいレベルのシスコンだな』と。  自覚はある。  だが、ヤバいなんて思っていない。  それに、シスコンだとも思っていない。  だって、俺にとって姉ちゃんは、姉ちゃんという名の女だ。  けれど、姉ちゃんはそれをよく思っていない。  学生の頃は、女から電話がくるたびに姉ちゃんが少し不機嫌なのが嬉しかった。が、両親が亡くなった頃から『私たちは世界にたった二人きりの家族だけど、いつかはそれぞれに新しい家族を持つんだよ』なんて言うようになった。  新しい家族なんていらない。  俺がそう言うたびに、姉ちゃんは困った表情(かお)をした。  永遠に二人きりの家族ではダメだったのだろうか。  俺の命は、姉ちゃんの母さんに救われ、姉ちゃんに守られてきた。  俺にとって、姉ちゃんがこの世のすべてだ。  それは、姉ちゃんには困るのだろうか。  姉ちゃんが結婚してから、俺は自分の感情を言葉にするのをやめた。  俺のせいで姉ちゃんが、弘毅や弘毅の親に虐められるのは嫌だ。  あいつらが、俺がホストをしているのを世間体が悪いだのと姉ちゃんに言うから、距離を置いた時期もあった。  姉ちゃん以外の女は嫌いだけれど、金になる。  学もない、親もない俺でも稼げる仕事は、そう簡単には見つからない。  姉ちゃんも俺にホストを辞めてほしいと言っていたが、それは世間体を気にしてじゃない。  俺が、嫌いな女たちに媚びてまで稼ぐのを可哀想に思ったからだ。  姉ちゃんは、あいつらとは違う。  姉ちゃんは、あいつらの家族じゃない。  俺の家族だ。  姉ちゃんと幸大は、俺の家族だ。  俺が、守る――。  
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