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「誰? このふたり」
遼平さんが俺の頭のてっぺんに顎をのせて、パソコンを覗き込む。
「重いんですけど」
ディスプレイに映っているのは、里菜のマンションに入って行く、腕を組んだ弘毅と里菜の後ろ姿。
遼平さんがクリックすると、二人がお互いを見る横顔に変わる。
その次は、顔のズーム。
「まだまだ、下手くそだな」
遼平さんの言う下手くそは、撮影のこと。
「自分を基準にしないでください」
「動画はないの?」
「次は動画にします」
「だね」
遼平さんが喋る度、頭のてっぺんが押されて痛い。
遼平さんは高校で写真部に所属していて、賞も取ったことがあると言っていた。
今でも、休みの日には風景や動物を撮影しているらしい。
「で? この二人は?」
「俺の姉ちゃんの旦那と愛人」
「へぇ。面白そうなことしてんね。どうすんの、これ」
「姉ちゃんの離婚の――」
「――離婚すんの?」
「はい」
「証拠集め?」
「……まぁ」
「歯切れ悪いね」
浮気の証拠を揃えて、姉ちゃんが有利な条件で離婚できたらいい。
姉ちゃんにはそう言った。
嘘じゃない。
「復讐?」
低い声と同時に首にかかっていた重みがなくなる。
「シスコンだもんな」
「……」
「否定しないんだな」
遼平さんが隣の席の椅子を寄せて、座った。
事務所には俺と遼平さんしかいないのに、なぜか机は四つある。
横並びの向かい合わせで。
事務所っぽいからそうするそうだ。
来客が少ないから俺らの昼寝用になっている二台のソファも、それに挟まれているローテーブルも。
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