3.接触

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 遼平さんの理想とする事務所は、随分と昭和臭い。  昭和を知らないが、たまに遼平さんが見ているドラマの再放送の探偵事務所がそうだ。 「で?」  遼平さんが机に片肘を立てて、拳に頬をのせて足を組む。  ホスト時代は、この偉そうな態度に女がうっとりしていた。 「なにすんの」  楽しそうだ。  笑っているわけではないが、そんな気がする。  俺は彼から、ディスプレイに視線を移す。 「証拠を――」 「――ハニトラ?」 「……」 「できんの? お前に」 「…………」  できる、と言うだけなのに、言えない。  言っても、どうせ信じてもらえない。 「デキなくてもヤリそうだな」 「え?」 「姉ちゃんのためなら、勃たないモンも勃たせそう」  気合でどうにかなるものか。 「けど、姉ちゃんは泣くな」 「……」 「旦那の愛人が、大事な弟とまでヤッたら」 「……ヤりませんよ」 「そうしろ」  ヤりたくてもデキないと知ってて言うんだから、意地が悪い。 「俺のチ〇コ貸してやろうか」 「はい?」  着脱できるチ〇コなんて聞いたことがない。あったとしてもお断りだが。 「ちゃんと勃つぞ?」 「いや、そうじゃ――」 「――こういう女王様タイプの女泣かすの、コウフンしね?」  遼平さんが空いている手の人差し指で、ディスプレイの中の里菜を指す。 「しません」 「ああ。お前は姉ちゃんにしか興奮しねーんだもんな」 「やめろ」  遼平さんのことは好きだ。  だが、時々笑えない冗談を言う。真顔で。  それが、どうしようもなく嫌だ。 「悪いことでも汚いことでもないのにな」  遼平さんが、なぜか困り顔で言う。
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