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幼稚園バスから懸命に手を振る息子を笑顔で見送る。
どんな朝でも、だ。
家に帰り、掃除、洗濯をする。
ごく一般的な専業主婦の朝。
「今日はなににしよう......」
掃除機をかけながら、ひとり呟く。
買い物に行かなければならないのに、財布は空っぽ。
今月も赤字だ。
「もう......っ」
誰にも言えない苛立ちを吐き出す。
夫が妻の財布からお金を抜き取る。
どこの家庭でもそうなのだろうか。
誰にも、聞けない。
「夜ご飯......」
ヒントを求めて幼稚園の給食メニュー表の、
今日の日付を指さす。
カレーライス。
しまった。
水色の服を着せてしまった。
見逃した朝の占いは、きっと最下位だったろう。
昼少し前に買い物に行くと、幸大と同じ年頃の女の子がお菓子売り場にしゃがみ込んでいた。
「こぉら! 勝手に――」
「――パパ! チョコ買って!」
パパと呼ばれた男性がため息をつき、しょうがないなと困り顔を見せた。
「ママに内緒だぞ? ほら、早く帰ろう。ママの具合が悪くなったら大変だ」
「じゃあ、ママにもチョコ!」
「すぐには食べられないかもしれないぞ?」
「お腹の赤ちゃん、チョコ好きじゃない?」
チョコレートを手に持った女の子を、パパが抱き上げてカートに乗せる。
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