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遼平さんはというと、大事な車を傷つけたり汚されたりしないか気になるのか、里菜の靴を脱がせ、指輪やなんかでシートを傷つけないように、かなり不自然に彼女の手を握っている。
早く彼女を車から降ろさなければ、俺より先に遼平さんがキレそうだ。
マンションに着くと、里菜の指示で来客用のスペースに駐車し、遼平さんの指示で車にシートを被せた。
スーツにバックパックは格好がつかないが、里菜は気に留めなかった。
夜でも煌々としたロビーの端にはカウンターがあり、コンシェルジュらしい男性がひとり。
「おかえりなさいませ」とお辞儀をされたが、里菜も遼平さんも反応しない。頭を下げそうになった俺は、慌てて背筋を伸ばした。
『知らない人についていくのはダメだけど、挨拶されたら返すくらいは礼儀よ』
姉ちゃんの言葉を思い出す。
エレベーターの中でも、里菜と遼平さんはイチャイチャしていて、俺は扉の前でひたすらに姉ちゃんを想っていた。
姉ちゃんの飯、食いてぇ。
ハグ、してぇ……。
十三階でエレベーターを降りると、庶民が珍しいものを眺めるようなつもりで、キョロキョロと辺りを見回した。
マンションについてはネットでわかる程度の情報は頭に入っている。
エレベーターは三台あるが、それぞれ止まる階が限定されているから、間違えると到着しない。
エレベーターの中はもちろんだが、降りたすぐ頭上にも二台のカメラが設置されていて、それぞれ向きが違う。
合鍵を作って忍び込むのは無理だ。
カメラ以前に、合鍵を作れない。
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