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『弘毅さんが……、輝が街で客引きしてたって』
「ああ」
愛人と一緒のところを見られたくせに、そのことは伏せてまた、俺の仕事のことで姉ちゃんを責めたのだろうか。
「戻ったフリをしただけ」
『なんで!?』
「仕事で。客引きのフリして夜遊びする対象者を監視してたんだ。俺がサラリーマン風って、無理があるだろ?」
俺のしていることを、姉ちゃんに言うつもりはない。
絶対に心配するし責任を感じる。
『危ないことしてない?』
「してないよ」
『本当に?』
姉ちゃんの心配そうな声に、俺は心底ホットする。
愛されている、と思えるから。
姉ちゃんの中ではきっと、俺は子供の頃のままなのだろうと思うと複雑だが。
それでも、嬉しい。
「大丈夫だよ。それより、旦那の浮気の証拠集めが終わるまでは、我慢しててよ」
『……うん』
「マジで。先走って離婚したいなんて言い出さないように!」
『うん』
姉ちゃんはすぐにでも離婚を切り出そうとした。
が、言い逃れできない証拠を揃えて、調停なり弁護士なり、とにかく第三者に入ってもらうように言い聞かせた。
姉ちゃんには、弘毅の鞄にレコーダーを仕込むのと、無理のない程度に弘毅のスマホのメッセージアプリのデータを俺に転送するように言ってある。
『最近ね、弘毅さんの帰りが早いの』
「ああ。愛人とは会ってないみたいだね」
『知ってたの?』
「まぁね」
俺が里菜に接触した夜から、二人は会っていない。
弘毅は会いたくて、というかヤリたくて連絡しているのだが、里菜が無視している。
そして、里菜は遼平さんを追いかけて、連日『Gloria』に通っている。
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