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箱は、さっきまでおじいちゃんとおばあちゃんが座っていた後部座席に積んだ。
一度に持ちきれなかった買い物袋を持って家に戻り、もう一度礼を言って、今日の料金を受け取った。
姉ちゃんと幸大は家にいた。
お菓子の箱を渡すと、幸大は箱の開け口を探し始めた。
俺は久しぶりに姉ちゃんを抱きしめる。
「疲れてる?」
「そんなことないよ」
俺はこの瞬間のために生きているんじゃないかと思えるほど、幸せな時間。
「幸大は最近どう?」
姉ちゃんが幸大を横目で見てから、少し背伸びをして俺の耳元に顔を寄せた。
「映画館でのこと、忘れてきてるみたい。トイレの回数も減ったし」
姉ちゃんの囁き声が鼓膜をくすぐる。
「ねぇ。どうして輝はうちに来るとママとハグするの?」
テープを剥せなかったらしく、幸大は箱を抱きしめて聞いた。
俺と姉ちゃんは互いを手放し、幸大の前に腰を下ろした。
「幸大のママのことが好きだから」
「ふ~ん」
俺の返事に、幸大が少し唇を尖らす。
姉ちゃんが幸大を膝にのせて抱きしめる。
「ママだって幸大をハグするでしょ?」
「うん」
「それと同じ」
「そっか」
「ってか、よくハグなんて言葉知ってたな?」
「テレビでやってた」
もう少し大きくなったら、きっと姉弟で抱き合うなんて日本じゃやらないことに気づくのだろう。
その時、姉ちゃんは何と話すのだろう。
俺と姉ちゃんの子供時代を話して理解できるだろうか。
姉ちゃんがクッキーの箱を開けてやると、幸大がどれを食べようかと真剣な表情で吟味し始めた。
その間に、姉ちゃんからボイスレコーダーを受け取る。
「完璧な証拠が揃ったら、弁護士に相談に行こう」
俺の言葉に、姉ちゃんが迷いなく頷いてくれて、ホッとした。
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