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実際に里菜と会うのは約ひと月ぶり。
カメラ越しには毎日見ていたが。
『Gloria』では、里菜の噂でもちきりだった。
最初の二週間は羽振りがよく、それからは全く金を落とさない。
店に来るたびに遊んで行けと誘っても、俺か遼平さんがいないのならと帰っていく。
キャストたちの中では、誰が里菜を引き留められるかと賭けの対象にまでなっていた。
「で? あの女、なに?」
かなり今更だが、店長に聞かれて、俺はざっくりと話した。
知られて困ることではない。
俺が弘毅の妻の弟であることは、里菜自身も知っている。
「そりゃ、怒ったろ、遼平」
既に現役時代の衣装はほとんど手放していた俺は、店から借りることにして、ロッカールームで着替えていた。
「怒った……?」
「輝は知らないか。遼平な、姉ちゃんがいたんだよ」
「そうなんですか?」
遼平さんは家族のことを話さない。
自分のことはちらほらと話しても。
「うん。だから、お前と自分を重ねてるのかもな」
「重ねる?」
「遼平がお前を可愛がり出したの、お前の姉ちゃんが店に挨拶に来てからだろ?」
俺が働き始めて二か月ほど経った時、開店前の店に姉ちゃんが訪ねてきた。大量の手作り弁当を持って。
『弟がお世話になっています。今後ともよろしくお願いします』と。
店長が『こんな職場ですし、よろしくしない方がいいのでは?』と皮肉っぽく返すと、姉ちゃんは真顔で言った。
『接客業が大変だとは話しましたが、どうしてもやると言う以上、私は応援します。至らないところばかりですが、どうぞよろしくお願いします』
姉ちゃんの弁当は、当然だが美味しくて、好評だった。
『俺たちの仕事は、風俗だの水商売だのと言われることはあっても、接客業だと言ってくれる人はいない。輝、姉ちゃんを大事にしろよ。稼いで、姉ちゃん孝行してやれ』
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