5.堕とす

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「それは、ありがとうございます。ですが、遼平は今日、VIPのお客様をお待ちしています。ですから――」 「――もちろん、その分も払うわ」  VIPルームの席料に指名料、ブラックの料金にTAX。バカな俺でも百五十万越えなのはわかる。  しかも、予約を横取りするのだから、詫び料で倍額請求だ。 「よろしいのですか? 本日のブラックは少々――」 「――いいの。開けて」  ホストクラブやキャバクラでは、ドリンク料金はその日の仕入れ値によって変動する。  安価なグラス料金はほぼ変わらないが、高価な、しかもボトルとなると大きく変わる。  だから、出来るだけ安値で仕入れ、最も高値で開けてくれる客を待つ。 『Gloria(この店)』にとって、それが今日らしい。  遼平さんはVIPスペースから高みの見物。  そもそも、遼平さんにVIPの予約なんていない。  店長と仕組んだのだろう。 「畏まりました。では――」 「――それから、VIP貸し切りで、輝もつけて」  VIPスペースには三組が利用できる。  仕切れるから個室にもなるし、大人数での利用も可能。  ただ、料金は三倍になる。  ついでに、俺の指名料もプラス。  俺にはもう、計算できない。 「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」  店長が恭しく頭を下げ、VIPスペースに促すように手を差し出した。  俺は里菜の隣に立ち、彼女の腰に手を添える。 「ふふっ」  かなりご満悦だ。  遼平さんの元まで、里菜をエスコートする。 「やっと会えた」  里菜は遼平さんの隣に座るなり首に腕を回し、唇の端にキスをした。 「どんだけ会いたかったんだよ?」  遼平さんも里菜の肩に腕を回す。 「毎日通うくらい? ねぇ、どうしてずっといなかったのよ」 「ん~? ちょっと悪さして?」 「客に手を出した?」 「逆」 「え?」
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