5.堕とす

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「輝!」  里菜の声にびくりと肩を竦ませた。 「輝も来て」  マズい。  本気で三人でスルつもりか。 「里菜、俺を満足させてからにしろよ」  遼平さんの低い声。 「あっ! ……っん」  廊下に響く里菜の声。 「輝。シャワー浴びてくっから、冷えたの用意しとけ」 「はいっ!」  マジだ。  確かに頼んだけれど、申し訳なさで堪らなくなる。  いくら遼平さんが気にしないと言っても、俺は気になる。  だが、せっかくのチャンスだ。  俺は寝室に行き、充電器を交換した。  これで、寝室内の会話が聞ける。  キッチンに戻ってグラスの入った棚の扉を開ける。  ふと、端っこに置かれた白い袋が目に入った。  薬……?  袋に書かれているのは、レディースクリニックの名前。  中身を取り出し、袋と並べて写真を撮る。  そして、元に戻した。  恐らく、ピルだ。  里菜自身が言っていた。  ピルを飲んでいるから中出ししていいと、弘毅に。  俺のピルについての知識は、避妊薬であることと毎日飲む必要があるらしいということくらい。  薬のシートに番号が振られているところを見ると、毎日飲むもので間違いないのだろう。  ピル(こんなもの)を飲み続けてまで、中出しセックスがしたいのか。  あの女も似たようなもんだったか……。  ガタンッと物音がして、俺は慌てて薬を元に戻した。  そして、ポケットから青い錠剤を取り出す。  前回同様に粉々に砕いてシャンパングラスに入れた。半分だけ。  これでは効果が半減するかもしれない。  即効性に欠けるかもしれない。  わかっていて、そうした。  遼平さん、ごめん――っ!  今度も途中で眠ってしまったら、さすがに里菜も不審に思うだろう。  今度こそ、ちゃんと遼平さんに堕ちてもらわないと困る。
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