5.堕とす

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 里菜の唇が遼平さんの唇に触れる直前、彼女の唇が遼平さんの手で覆われた。  里菜の喉がごくりと鳴る。  ホッと肩から力が抜けたのも束の間、遼平さんが里菜からグラスを奪って口に入れた。  そして、里菜に口づける。  後頭部に手を回し、逃げられないようにして。  里菜の喉がまた音を立ててシャンパンを飲み込んだ。 「気が強い女はキライじゃないけどな? 節操のない女は大っキライなんだよ」  まだ唇がつかず離れずのまま、遼平さんが里菜に言った。  二人は、睫毛さえ触れ合いそうな距離で、睨み合っている。 「どの口が言うのよ?」 「俺は発情期の動物みたいに、毎日女をとっかえひっかえしてないんだよ。誰かと違って、な」 「なん――っで!」  遼平さんがフンッと笑う。 「図星か」  突き放すように里菜から手を離すと、遼平さんが俺の手に残ったグラスを取り、飲み干した。  二つのグラスが俺の手に戻ってきた時、遼平さんが微かに顎を動かした。  くるりと方向転換して、二歩進み、振り返る。 「俺、帰っていいですか?」 「ああ」 「ダメ!」  裸の男女に真逆のことを言われ、はぁっとため息をつく。 「里菜、俺一人満足させられないくせに――」 「――満足させられるわよ!」 「あ、そ。けど、輝の好みはお前と真逆のがっつり清楚系だから、無理だと思うぞ? その証拠に、お前の裸見てもピクリともしてねぇだろ」  里菜の視線を受けた股間が、大きくなるどころか委縮する。 「その気にさせてあげるわよ」 「あ、そ? じゃ、まぁ、お手並み拝見だな。輝、そっちで適当に飲んどけよ」 「……はぁい」  つまらなそうに言い、里菜に視線を移し、遼平さんの真似をして鼻で笑ってみせる。 「いい加減、風邪ひきますよ」
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