5.堕とす

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 俺はそれらを並べて写真を撮った。  すべて元通りに片付け、部屋を見回す。  最後にゴミ箱を覗いてみた。  名刺のようなカードが数枚、無造作に捨てられている。  それを拾って並べた。 『Gloria』の名刺、メンズデリヘルの名刺、一般企業の男の名刺。  こんなにたくさんの男と関わっているのに、なぜ遼平さんに執着するのか。  いや、なぜ『弘毅』なのか。  そういえば、と耳を澄ます。  いつの間にか、里菜の喘ぎ声が止んでいる。  眠っ……た?  並べた名刺を写真に収めて、それらをゴミ箱に戻す。  そして、スマホをポケットに入れて、リビングのドアを開けた。  同時に、寝室のドアが開く。 「りょ――」  声をかけようとしたが、先に遼平さんが俺に気づいて人差し指を唇の前で立てた。  寝室のドアを静かに閉めた彼は、真っ裸。 「シャワー浴びてくる」  俺は黙って頷いた。  リビングに戻って、じっとしている。  突っ立っていると落ち着かなくて、座った。  膝をきつく抱いて、膝頭に頭のてっぺんがくっつくほど縮こまる。  目を開けても閉じても暗闇。  なら、と目を閉じた。  もうずっと、こんな風に丸くなることはなかった。  昔、俺がこうしていると、姉ちゃんが見つけて抱きしめてくれた。 「大丈夫だよ」「一人じゃないよ」と。  でも、今は姉ちゃんがいない。  俺ももう、子供じゃない。  だから、一人で顔を上げなければ。  そう思うのにできないのは、遼平さんへの呵責の気持ちからだ。  他に、方法はなかったのか。  そもそも、遼平さんを巻き込むつもりはなかった。  なかったのに――!  結局、情けないほど頼りっきりだ。 「輝?」  呼ばれて、顔を上げた。
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