5.堕とす

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 里菜はそう長く眠っていてくれないかもしれない。  だが、遼平さん一人を残して帰るのはさすがに気が引けた。 「輝。うまくいけば、里菜はお前のねーちゃんの旦那を切るだろう。そしたら、後はねーちゃんが頑張らなきゃいけない。浮気の証拠を突き付けて、離婚だ」  そうだ。  愛人に捨てられた惨めな弘毅に追い打ちをかける。 「俺はそこまでは助けてやれない。お前がそばにいてやらなきゃ」  遼平さんが俺の頭にポンッと手をのせた。 「俺が遅刻したら、権藤(ごんどう)さん家の犬の散歩、よろしくな」 「えっ!? 無理ですよ! あの犬、めっちゃ吠えるんですよ!?」  権藤さんとはブルドックを飼っているお年寄りで、日頃の散歩は短いながらも自分で連れて行くのだが、二週に一度は長距離を歩かせてやりたいと、遼平さんに依頼がある。  俺を見ると吠えながら圧し掛かってくる『ハニーちゃん』はメスだ。 「興奮しすぎて吠えてるだけだ。お前、好かれてるんだよ」  遼平さんがケラケラと笑う。 「いや、嫌われてるんですよ。つーか、見下されてる?」 「はははっ! ま、頑張れ。ハニーちゃんの散歩で、今度のことはチャラだ」  ハニーちゃんは苦手だが、そんなことでチャラになるはずもない。  それでも、ここで俺がごねてもどうしようもない。 「わかりました。ビシッと言ってやりますよ」  俺は涙を拭って立ち上がる。 「女どころかメスに見下されるなんて、惨めです」 「その意気だ」  俺は里菜のマンションを出た。ひとりで。  里菜が早々に遼平さんを解放してくれたらと、微かな望みを捨てきれないまま。
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