6.絶望

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6.絶望

 弘毅さんと愛人の里菜が抱き合う写真をじっと見つめる私を、輝がじっと見つめていた。  絡み合う二人の顔が綺麗に映っている。快楽に溺れる表情まではっきりと。  当人たちが見れば、里菜の家で撮られたものだとわかるだろう。そして、誰が撮ったのかと騒ぎ立てるはず。  けれど、弘毅さんが里菜に連絡することはないと、輝は言った。  里菜には弘毅さん以外に夢中になっている男がいて、昨晩、一方的に別れを告げたらしい。  それを聞いて、今朝の弘毅さんが異常なまでに不機嫌だったことに納得した。  挨拶すれば舌打ちで返し、コーヒーが熱いと悪態をつき、ネクタイがうまく結べなくて地団駄を踏む始末。  幸大が起きてくる前に出て言ってくれて良かった。 「これで不貞の証拠は完璧だ。使いたくはないが動画も音声もある」 「……そうね」 「離婚問題に強い弁護士を知ってる。すぐに予約を取って――」 「――輝」 「ん?」 「まずは……話し合ってみる」 「え?」 「円満離婚できるなら、その方がいいと思うから」  夫の浮気を知ってから、苦しかった。  彼を許せはしないし、離婚の決意も揺るがない。  けれど、彼は息子の父親だ。  どんな人間でも、この世でたった一人、血の繋がった父親なのだ。 「SNSでサレ妻……っていうの? そういう人たちのメッセージとか見てるとね。離婚してすっきりしたって人もいれば、再構築? できるように頑張れば良かったって言う人もいて。そう言う人たちのほとんどは、お金に困って、子供の将来が不安だから、自分が我慢すれば良かったんじゃないかって思うみたい」
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