6.絶望

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 私は写真をテーブルに置いた。  身体を捻り、ソファの隣に座る弟と向き合う。 「幸大には、苦労をかけたくないの。もちろん、私も頑張るけれど、父親との関係が良好であるに越したことはないと思うから」 「反対だ! 幸大のことを思う気持ちはわかるけど、そもそも離婚の原因を作ったのはあいつだろ。姉ちゃんは少しも悪くないのに――」 「――夫婦なんだから、少しも悪くないなんてこと、ないのよ」 「姉ちゃん……」  私も、そう思いたかった。  私は悪くない、被害者だ、と。  けれど、浮気する男性の言い分のほとんどが、妻が構ってくれない、母親になった妻を女として見られない、だと知って、私たち夫婦にも当てはまるなと思った。  従順と言えば物わかりが良さそうだが、私の場合は完全に言いなりだった。  念願の家族を手にして、その幸せを壊さぬようにと、弘毅さんの言う通りに生きてきた。  けれど、幸大が生まれて私は変わった。  私の世界は幸大が中心で、弘毅さんはそれを不満に思っていると気づいていた。  気づいていたのに、改善できなかった。  もっと弘毅さんに寄り添っていれば、自分磨きを怠らずにいれば、何かが違ったかもしれない。  この数週間、そんなことばかり考えていた。  里菜が会ってくれないからという理由でも、早く帰ってきた弘毅さんは幸大と一緒にお風呂に入ったり、脈絡のない幸大の話に頷いていたり、コミュニケーションを取っていた。  いつも私と二人の食卓に父親がいるというだけでも、幸大は嬉しかったはず。  そういう幸せを、私は息子から奪おうとしているのだ。
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