6.絶望

3/15
前へ
/166ページ
次へ
「離婚後も幸大には父親と関わりを持っていてほしいし、そのためにも――」 「――けど! 姉ちゃんいつも、あいつに上手いこと言いくるめられちゃうだろ。今だって、幸大の為とか言いながら、自分も悪かったんじゃないかとか考えてる。姉ちゃんは何も悪くないだろ! 全力で子育てしてただけだ」  私以上に傷ついた、苦しそうな表情の弟に、胸が痛む。  私は、きつく握られた弟の手に、そっと触れた。 「ありがとう、輝」 「姉ちゃん!」  強く抱きしめられる。  守ってあげたい、守ってあげなきゃと思っていた小さな弟が、今では私が太刀打ちできないほど力強く、大きくなった。  姉なのに、弟に守られていることを恥ずかしく思うも、その手に縋ることをやめられない。  ごめんね、輝……。  私は心の中で呟いた。  証拠を掴むために、きっと危険なことをたくさんしただろう。  そうでなければ、室内の、あんなに鮮明な写真なんて撮れるはずがない。 「輝、里菜って人と何かあった?」  弟が首を振る。 「そう……」 「今すぐ荷物をまとめて、幸大が帰ってきたらここを出よう。そして、弁護士のところに行くんだ。狭いけど、三人で寝ることくらいできるよ、俺の部屋」 「一度だけ。一度だけ、弘毅さんと話をさせて。私の口から、離婚してほしいと伝えるわ。それで、わかってもらえなければ、輝の言う通りにする」  輝の腕に力がこもる。  納得できていないのはわかる。  それでも、輝は私の気持ちを優先してくれる。  いつも、そうだ。 「何かあったら、すぐに電話して。迎えに来るから」 「うん」 「怒鳴られたり殴られたりする前に、だよ」 「……うん」 「スマホ、今どこにある?」 「え? あ、キッチンかな?」 「ほら、そんな風にどっかに置いておいたら、肝心な時に電話できないだろ。ちゃんと、ずっと持ってて」 「わかった」  何度も何度もそう言って、輝は帰って行った。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3752人が本棚に入れています
本棚に追加