3752人が本棚に入れています
本棚に追加
「離婚後も幸大には父親と関わりを持っていてほしいし、そのためにも――」
「――けど! 姉ちゃんいつも、あいつに上手いこと言いくるめられちゃうだろ。今だって、幸大の為とか言いながら、自分も悪かったんじゃないかとか考えてる。姉ちゃんは何も悪くないだろ! 全力で子育てしてただけだ」
私以上に傷ついた、苦しそうな表情の弟に、胸が痛む。
私は、きつく握られた弟の手に、そっと触れた。
「ありがとう、輝」
「姉ちゃん!」
強く抱きしめられる。
守ってあげたい、守ってあげなきゃと思っていた小さな弟が、今では私が太刀打ちできないほど力強く、大きくなった。
姉なのに、弟に守られていることを恥ずかしく思うも、その手に縋ることをやめられない。
ごめんね、輝……。
私は心の中で呟いた。
証拠を掴むために、きっと危険なことをたくさんしただろう。
そうでなければ、室内の、あんなに鮮明な写真なんて撮れるはずがない。
「輝、里菜って人と何かあった?」
弟が首を振る。
「そう……」
「今すぐ荷物をまとめて、幸大が帰ってきたらここを出よう。そして、弁護士のところに行くんだ。狭いけど、三人で寝ることくらいできるよ、俺の部屋」
「一度だけ。一度だけ、弘毅さんと話をさせて。私の口から、離婚してほしいと伝えるわ。それで、わかってもらえなければ、輝の言う通りにする」
輝の腕に力がこもる。
納得できていないのはわかる。
それでも、輝は私の気持ちを優先してくれる。
いつも、そうだ。
「何かあったら、すぐに電話して。迎えに来るから」
「うん」
「怒鳴られたり殴られたりする前に、だよ」
「……うん」
「スマホ、今どこにある?」
「え? あ、キッチンかな?」
「ほら、そんな風にどっかに置いておいたら、肝心な時に電話できないだろ。ちゃんと、ずっと持ってて」
「わかった」
何度も何度もそう言って、輝は帰って行った。
最初のコメントを投稿しよう!