6.絶望

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 里菜にフラれて不機嫌な彼に離婚を切り出すのは、タイミングが最悪だとわかっている。  いっそのこと、怒鳴って殴ってくれたら、諦めもつくのかもしれない。  そんな気持ちもどこかにあって、幸大が寝付いた後に話を切り出した。 「離婚、してください」  写真に目を丸くしている夫に、私は告げた。 「この女とは終わってる」 「だとしても、です」 「終わってるって言ってるだろ」 「そういう問題じゃ――」 「――帰る家もないくせに、一度の浮気ぐらいで離婚?」 「……っ一度、じゃ――」 「――遊びだ。お前が幸大にかまけて俺を放っておくからだろ」  本当に言うんだ、と思った。  SNSで見た、浮気した男の言い訳。  (この人)も、結局はその他大勢の男となんら変わらない。 「もう、愛なんてないでしょう?」 「愛?」  ふんっと鼻で笑われた。  そして、思った。  愛なんて、最初からなかったのかもしれない。 「離婚してください」  この期に及んで、お願いしている自分が悲しい。  それでも、これで離婚してもらえるなら、なんてことない。  弘毅さんが、はぁとため息をついた。  手でこめかみを押さえる。 「考えさせてくれ」 「え?」 「お前が離婚を切り出すなんて思ってもいなかったんだ。動揺もする。冷静になる時間をくれ」  意外な反応だった。  夫が寝室に行った後で、私は輝に報告のメッセージを送った。  すぐに既読がついて、どれほど心配させているのだろうと、申し訳なくなった。  いつまで待てばいいのかわからないまま、三日が過ぎた。  その間、弘毅さんは静かだった。  早く帰宅して、三人で食事をして、幸大とお風呂に入る。  ずっとこんな生活が続いていたのなら、離婚なんて考えなかった。  けれど、私の知っている夫は、妻から離婚を切り出された瞬間に改心するほど妻を愛してはいないし、それを続けられるほどできた人間ではない。  この状況が続くと期待できるほど、私が受けた傷は浅くない。
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