6.絶望

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 そして、四日目。  いつもの時間に夫は帰ってこなかった。  幸大は三十分ほど待っていたが、空腹に耐えかねて私と二人で食事をして、私と一緒にお風呂に入った。  お遊戯会に向けて練習している歌を歌ってくれた。  アイドルグループの歌で、疎い私でもサビは知っていた。  一緒に歌うと、パパには『知らない』と言われたと教えてくれた。  幸大が寝る時間になっても連絡ひとつなかった。  残業だろうか。  それとも、里菜の代わりの女を見つけたのだろうか。  もう、胸は痛まない。  私は幸大の隣で目を閉じた。  しばらくして、ガチャッと無遠慮に玄関ドアが開けられ、閉まる音が聞こえて、目を開けた。  ドタドタと足音が部屋の前を通り過ぎていく。  私は静かに幸大の部屋を出た。  リビングでは、夫がジャケットを脱いでソファに放っていた。 「おかえりなさい」  無言で振り返った彼を見て、すぐにわかった。  アルコール臭。 「ご飯……は?」 「……いい」 「そう。じゃあ、おやす――」 「――シャワー浴びるから、スーツ片付けておいてくれ」 「え? あ、はい」  いつもはそんなことを言わない。  私が片付けるのが当たり前だから。  夫がソファや、寝室のベッドに脱ぎ散らかし、彼のいない時に私がそれを片付ける。  私は、ジャケットを持って寝室に入った。  弘毅さんのパジャマと下着を出して、浴室に置こうと振り返り、ドキッとした。  シャワーを浴びると言った夫が、ドアの前に立っていたから。 「シャワー、は――っ!」  いきなり腕を掴まれ、パジャマを落としてしまう。 「ちょ――」  そのまま、部屋に入ってドアを閉めた弘毅さんは、ブンッと私は放った。  ベッドに躓き、ベッドの上に倒れ込む。 「子供が欲しいと言っていたよな」  起き上がるより先に背後から圧し掛かられ、耳元で言われた。  酒臭い。  とても、臭い。  そう思うや否や、脇から弘毅さんの手が伸びてきて、両胸を鷲掴みにされた。
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