6.絶望

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 輝と出会う前、私は両親とともに暮らしていた。  父親は偉そうな人だった。  これは、態度だけでなく立場についても、そうだ。  だが、当時の私にはわからなかった。  とにかく偉そうで、お母さんを怒鳴り、私を怒鳴り、私たちのすべてを支配した。  毎朝、父はお母さんにお金を渡していた。その日の生活費だったのだと思う。  お母さんは必ず「ありがとうございます」とお礼を言って受け取っていた。  私は父が怖かった。  男の人に恐怖を感じるようになったのは、父が原因だと思う。  父は暴力までは振るわなかった。  物に当たることはあったけれど、お母さんや私を殴りはしなかった。  だから、お母さんは耐えられたんだと思う。  そして、初めて父がお母さんを殴った翌朝、私は母と共に家を出た。  私たちはおんぼろアパートの一室で、身体を寄せ合ってひっそりと、慎ましく暮らした。  三年後、お母さんが再婚するまで。  私はお母さんの再婚相手も怖がった。  お父さん、とも呼べなかった。  それでも、お父さんは穏やかに微笑んでくれた。  彼は、大声を上げることも、物を乱暴に扱うことも、お母さんを殴ることもしなかった。  おんぼろアパートから一軒家に引っ越して、私は与えられた自分の部屋で一人で過ごすようになった。  決して裕福ではなかったから、それまで通りお母さんも働いていたから。  一人はいい。  怖くないから。  それからさらに三年が過ぎて、私は十二歳になった。  その頃には、お父さんと学校の先生に限っては恐怖を感じずに接することができるようになっていた。  ある日、学校から帰ると、家に小さな男の子がいた。  小さい、と思ったのは、全てがそうだったから。  自分より幼いという意味でもあり、自分より身体が小さいという意味でもあった。
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