6.絶望

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「なんだよ。新品みてぇだな」  激しく揺さぶられながら、私はひたすらに痛みに耐えていた。  抵抗して膝が夫の腹に当たり、また殴られて、私は抵抗をやめた。  酔った夫の瞳は虚ろで、何を言っても無駄だと諦めたのは、暴れるほど膣内が痛むから。  痛い思いを増してまで暴れるより、大人しくして早く終えてもらおうと思ったから。  思ったのに、そうはならなかった。  何度も貫かれ、何度も吐き出され、ようやく私の膣内(なか)から夫が出て行った。  夫は布団にくるまっていびきをかき始め、私はベッドを下り、足に伝う夫の精をティッシュで拭った。  足や腰が痛い。頬も痛い。押さえつけられた手首も肩も。  ふらついて、夫のバッグを蹴飛ばしてしまった。  そのまま座り込む。  夫のバッグを元に戻そうとして、茶色い厚みのある封筒が目に入った。  不自然な厚み。  私は封筒を開けた。  コンドーム……。  私には使わなかったコンドーム。  愛人のためのコンドーム。  私は封筒を逆さまにして、中身を広げた。  九個のコンドーム。  何も面白くないのに、なぜか口元が笑みを浮かべてしまう。  自分の間抜けさが笑えるのかもしれない。  いびきだけが響く部屋で、ピコンッとメッセージの着信を告げる電子音が聞こえた。  バッグの中の夫のスマホを取り出す。 〈会いたいんだけど〉  送り主は、里菜。  別れたんじゃなかったの……?  ふるっと寒さに身体を震わせ、裸の自分を抱きしめた。  それから、ゆっくりと立ち上がって、部屋の隅の裁縫箱を開ける。
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