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輝には言えなかった。
輝の想いを無下にしたくなかった。輝を悲しませたくなかった。
何より、私自身が現実を直視したくなかった。
翌日、弘毅さんは八時になっても起きてこなくて、私は発熱した幸大を小児科に連れて行き、お昼過ぎに帰った時にはいなかった。
〈仕事が入った〉
メッセージを見た私は、嘘だ、と思った。
昨夜、夜中に届いたメッセージを思い出し、思わず寝室で弘毅さんのバッグを探す。
ない。
仕事に行くと言った以上、持って行って当然だ。
「ママ……」
幸大の声に、寝室を出た。
幸い、幸大はインフルエンザやアデノではなくて、風邪だった。
それでも、三十八度の熱に浮かされて、ずっとぐずぐずしていて。
こんな時に帰って来られたら、手間が増える。
私は弘毅さんに、風邪がうつると困るから実家に泊まってほしいとメッセージを送った。
二時間後、わかったとメッセージが返ってくる。
恐らく、女との時間が増えて大喜びだろう。
私はリンゴの皮をむきながら、輝に見せられた写真を思い出していた。
あのコンドームを使って、女が妊娠したら……。
穴を開けた時、女が妊娠してくれたら弘毅さんが離婚に応じてくれると思った。
そうしてほしくて、穴を開けた。
けれど、冷静になって怖くなる。
そんな風にデキた子供は、不幸だ――。
妊娠しても、中絶するかもしれない。
出産しても、愛されないかもしれない。
子供に罪はないのに――!
「ママ……」
我が子の声にハッとし、包丁を持つ手が跳ねた。
「――っつ」
親指の腹から血が滲む。
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