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「幸大、遊びに行くぞ」
週末。
昼まで寝ていた夫が起きてくるなり、息子に言った。
幸大は最近ハマッているアニメのキャラクター図鑑を見て、キャラクターを指さしては名前や必殺技などを声に出していた。
きょとん、と父親を見上げる幸大。
「どこに行くの?」と聞いたのは私。
当たり前の問いなのに、弘毅さんは私を振り返ると表情で『いちいちうるせーな』と言った。
「映画」
「映画って――」
「――いちいちうるせーな。そのアニメの映画を見たいって言ってたろ。お前は俺たちがいない間に掃除でもしてろ」
今度ははっきりと口に出した。
『いない間、ゆっくりしてろ』とか言ってくれるわけじゃないのね......。
「幸大。パパが映画に連れてってくれるって」
「ママは?」
幸大が不安気に私を見る。
幸大がパパに、遊びに連れてってとせがむことがなくなったのは、一年ほど前から。
頼むだけ無駄だと悟ったのだと思う。
こうしてパパの方から遊びに誘われることも、きっと記憶にはないから、戸惑って当然だ。
けれど、幸大の気持ちも、そんな幸大を心配する私の気持ちも理解できない弘毅さんは、すんなり喜ばない息子にすら苛立つ予感。
私は息子の前に座り、目線を合わせた。
「ママはお留守番。ご飯作って待ってるね」
「うん......」
「ポップコーン、買ってもらったら? あ、ジュースはちょっとね? 途中でトイレに行きたくなったら――」
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