6.絶望

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 とりあえずティッシュで指を押さえて、皮をむいたリンゴを一口大にカットした。  真っ赤な顔をして、少しずつリンゴを噛み、瞳を潤ませて美味しいと言う息子を見て、いつかこの子が私をしたことを知ったらどう思うかと考え、泣きたくなった。  どうしてこんなことになったのだろう。  幸せになりたかっただけなのに。  幸せになれると思ったのに。  弘毅さんと一緒にいて、もう顔も思い出せない父の声や、あの声を聞いた自分の辛さがよみがえるようになったのは、いつからだろう。  ずっと、認めたくなかった。  自分の人を見る目のなさを。  初めて挨拶に行った時、お義父さんとお義母さんに『実の親だと思って甘えてね』と言われて嬉しかったことを。  幸大が生まれた時、涙目で『ありがとう』と言ってくれた弘毅さんを見て、この人と結婚できて良かったと思ったことを。  自分がこんなにバカだなんて、認めたくなかった……。 「ママ?」  いつの間にか手に持った皿は空で、幸大が私の顔を覗き込んでいた。 「お薬を飲もうか」 「ママ、怪我したの?」 「え?」 「ティッシュが真っ赤」  手元を見ると、傷口を押さえていたティッシュが真っ赤に染まっている。  ティッシュを替えると、もうほとんど血は出ていなかった。 「痛い?」 「大丈夫」  我が子の頭を撫で、そう言った。 「大丈夫よ」  心配そうに私の指を見る幸大に、私は何度も言った。 「大丈夫」  かつてお母さんが、父に怯える私にそう言い聞かせてくれたように、何度も。  里菜が妊娠しようとしまいと関係ない。  離婚して、一人でも幸大を立派に育ててみせる。  そう思っていたのに――。
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