6.絶望

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「お客様。これ以上騒がれますと、警察を呼ぶことに――」 「――ふざけんな! 私をバカにして、ただで済むと思ってんの!? こんな店、ぶっ潰してやる!!」  今更、冗談だったなんて言っても許してやるものかと、三十万のバッグをカウンターに叩きつける。  カウンター上のキャストリストを見つけて、目当ての顔と名前を探す。  ――な……い?  そんなはずはない。  名刺だって貰った。  そうよ、輝の名刺!  バッグを探すが、見つからない。 「お客様、そろそろ――」  バッグのベルトを持って店長にめがけて振り回した。  店長はさっとかわし、私は舌打ちをして、店を出た。  どうなってんのよ、ホント!  スマホを取り出すと、ちょうど弘毅からメッセージが届いた。 〈なんだよ、急に〉  店に入る前に送った『もう会わない』に対してだろう。 〈飽きたって言ってんの〉  それだけ送ると、ブロックした。  そして、遼平とのトーク画面を開く。  アプリで電話をかけるが、呼び出し音だけが続く。  メッセージも送った。 〈連絡して〉 〈忘れ物があるわよ〉 〈いつ、店に出るの?〉  翌朝になってもメッセージは既読にならない。  くそっ!  仕事を、休んだ。  むしゃくしゃして、とてもじゃないが受付で笑顔なんて作れない。  それに、昨夜から酒を飲み続けている。  意味がわからない。  間違いなく遼平と輝は『Gloria』のホストで、私は何度も店に行った。  遼平と輝がいない時は、他のホストと飲んだりもした。  なのに、誰一人私のことを知らない顔をして、遼平のことも輝のことも知らないと言う。  どうなってんのよ!!
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