01 Domの本能

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01 Domの本能

「高宮せんせー!」 「いたいた! 高宮先生、こっち!」  廊下を歩いているだけで、女子生徒たちがやけに騒ぎながら教室へと呼んでくる。さっきまで何事かと思ってたけど、どうやら昨日対処したSub Dropの件が、もう尾ヒレも背ビレもつきまくりのモンスター魚の噂になって学校内を騒がせているらしい。高校生っていうのはすごい。 「はいはい、昨日の件ならもう喋り飽きたからそれ以外な」  2組の入り口前で固まっている女子たちに一応言うけど、女子たちは聞いちゃいなかった。 「昨日の件って本当なの!?」 「先生がDomで、Subと三股してるって本当!?」 「しかも昨日学校の子までドロップさせたって」 「え、今そんな話になってんの?」  聞き捨てならない。ドロップさせたのは俺じゃない。  無視して次の授業がある5組に向かいたいところだったが、やんちゃな少女たち――とは言え、自分と5,6歳しか歳は変わらないけど――に教育的指導をすることにして立ち止まった。自分の名誉のためじゃない。教育のためだ。 「あのなお前たち、面白おかしく噂話するのはいいし、俺だからまあハイハイって聞くけど他の人にダイナミクス性聞くのとかやめなさいよ。昔ほどじゃないとは言えデリケートな話題なんだから」 「はあい」 「先生の三股もデリケートな話題だもんね」 「三股なんかしてませんー」  分かっているんだかいないんだか、女子はみなきゃらきゃらと笑う。 「高宮先生はハイハイって聞いてくれるんですかー?」 「俺はもう隠すのもめんどくさいし今日から公開だよ。噂の通り俺はDomですー、ダイナミクスについてわかんないこととかあったら俺のところに聞きに来いよー、ハイおしまい。次の授業用意しとけ」  話は終わりだと手を鳴らすと、彼女たちは「ええー」だの「まだ聞きたーい」と言いつつも「またあとでね〜」と手を振ってくれた。友達のように思われているのは間違いない。俺は今年から教師になった、いわば「一年生」なので、二年生の彼女たちよりも後輩みたいなもんなのだ。 「先生、Domなの?」  五組の授業でも、結局女子の話題は同じだった。問題演習に入ったと思ったらすぐこれ。一人が聞いたら「あ、それ私も聞きたい!」とか言い始めて騒がしい。 「授業中なんですけどー」 「先生が話せば終わるじゃん」 「あのな、さっきも二組の佐々木たちに言ったんだけど、ダイナミクスってデリケートな話題だからそんなポンポン話そうねって話じゃないんだよ」  ましてや今回はダイナミクスの「被害者と加害者」がいる事例で、そのあたりについては伏せておきたい。 「大人たちがそうやって扱いづらいものにしてるから興味が出るんですよ」  騒ぐ女子の中で、一番前の席に座った笹倉が珍しく言う。 「あ、珍しい、笹倉が女子の味方だ」 「オレもダイナミクスについては知りたいから」  笹倉の言うことも一理ある。ダイナミクス性を持つ人間として、あるいは生物教師として基礎的な知識はおさらいすべきなのかもしれない。テスト範囲は終わっていることだし。 「もう、分かったよ。説明します。でも噂になってる昨日の件は、俺だけの話じゃなくて加害者と被害者がいる事件なんで話せません。詮索もナシ!」  口々に質問してた生徒が頷いたり声を上げて了承した。ノートに向かってる生徒もいるが、ダイナミクスなどどうでもいいのならそれでいいだろう。 「この世には男女の性とは別にダイナミクス性があって、ダイナミクス性はDom、Sub、Neutralに分かれる。DomとSubは合わせても人口の十パーセントから二十パーセントくらいしかいないって言われてる。……去年のデータで十四パーセントくらいだったかな」  説明を始めてすぐ「先生はDomなの?」とどこからか声が上がった。 「……そうだよ、俺はDomの方。お前らと同じくらいのときに診断されて、一週間くらい施設に投げられた」
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