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プレイが苦手なのは、Domの本能が恐ろしいからだ。自分自身は誰かを支配したいだなんて思っていないと感じているのに、コマンド通りにSubが動いた瞬間、俺の心は本能的な幸福感でいっぱいになる。Subが愛おしく思えて恐ろしい。その人だから愛おしいんじゃない、Subだから愛おしく思えてしまうんだ。プレイが終わってそのことに気づいてしまうとき、俺はいつもDomの本能が怖くなった。
Domの本能は、俺の心の中に秘めている暴力性の象徴のように思える。
だから今日もまた、ダイナミクスを安定させる薬を飲んで、騙し騙しプレイから逃れている。
「薬ばかりだと良くないですよ、高宮先生」
授業を終えて昼休みに薬を飲んでいると、保健医の中嶋先生にそう声をかけられた。
中嶋先生は生徒にも人気があるお姉さんといったところで、年齢は知らないけど、Subだと本人が言っていた。俺が飲んでいる薬も、職業柄か本人の体験からか、すぐにダイナミクス不調の薬だと分かったらしい。
「やっぱ、バレますよね」
「パートナーはいらっしゃらないんですか? じゃなければ、支援課に行くとか……あ、こういうのを聞くのはよくありませんよね」
ハッとして口を押さえる中嶋先生に「問題ないですよ」と笑いかける。
「パートナーはいません。……支援課にはたまに行くんですけど、あんまり気分がいいものじゃなくて」
DomかSubは定期的にプレイをしなければダイナミクスの不調が身体症状となって現れてしまう。そのため、プレイをする相手をパートナーとして固定し、ダイナミクス不調が起こらない程度にプレイをするようにしている人は多い。それが恋愛に結びついたパートナーである場合もあるし、全く関係ない友人同士でパートナーとなる場合もある。「プレイ」と名はついているが、健康に生きるために必要な運動のようなもので、性的なものを伴わないプレイしかしない人も多い。
俺はと言うと、性的だろうとなかろうとプレイをする相手が周りにいないので、たまに自治体のダイナミクス支援課に行ってプレイを行うことがあった。
ダイナミクス支援課は、ダイナミクスが判明した際に連れて行かれる施設の簡易版のようなもので、各自治体に必ず設置されている。ダイナミクスに関連する不当な扱いの相談窓口から、ダイナミクス不調を起こさないためのプレイまで支援の幅は広い。プレイをする相手がいない人間は、大抵この支援課に行って職員や同様の悩みを持った人とプレイをして――もちろん、性的接触のないプレイだ――何とか不調を逃れる。
「支援課でよく知らない人とプレイをするのを嫌がるSubは多いですけど、Domでもそういう方はいるんですね」
「俺はそもそもプレイが苦手なんで、珍しいかもしんないです」
「それで薬を……」
「よくないのは分かってるんですけど」
そうは言っても、言い訳でしかない。本当はプレイが苦手だなんて言ってられないのは分かっている。
「いつか自分を許せるようになるといいですね」
「え?」
思いもよらない言葉に驚いて中嶋先生を見ると、彼女は流石保健医といった優しい表情で微笑んでいた。
「Domであることも、高宮先生ですから。Domであることも許してくださいね」
「は、い……」
中嶋先生が自分の席へと戻っていくのを、俺は見つめることしかできなかった。
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