03 確認/はじめて

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03 確認/はじめて

 DomとSubが初めてプレイをするなら、確認するべきことがいくつかある。まずはお互いの趣向。一括りに「支配」と言っても、Domの本能は個人によって様々だ。暴力的な支配を好む人間もいるし、反対に甘やかす支配を好む人間もいる。Subも同じで、罰による支配を好むSubもいれば褒美や庇護による支配を好むSubもいる。互いの好むやり方が分かっていなければ、トラブルになる。  これに関しては、八瀬が「厳しいのはあんまり。多分甘やかされる方が好きですね」と言ったので簡単に決まった。Domとしての支配性を好まない俺にとっても、罰や暴力は避けたいものだったので希望は一致している。  次にセーフワード。プレイの中で尊重されるべきはあくまでSubであって、Domが優位に立つことはできない。DomがSubの嫌がることした場合、Subはセーフワードを使ってDomを止めることができる。  と言っても、セーフワードが効力を発するのはセーフワードを共に確認した相手のみに限られる上、使ったとしても、Domが一瞬怯む程度でしかないと言われている。そのあたりはセーフワードを使われたことがないので実際のことはよく知らないが、そういう効果の薄いシステムなので、若者たちはセーフワードの確認をせずにプレイをすることが多いらしい(当たり前だけど、本当はよくない)。 「セーフワード、ですか」  だから、八瀬がきょとんとしたのも若い子ならではなんだろう。俺も世間一般から見たら若者のはずだけど。  初めて聞いたような顔をしてマグカップを持ったままの八瀬に呆れながら「まさか知らないとか言わないよな」と言う。ダイナミクス性が判明したら懇切丁寧に説明されるはずだ。 「知らないわけじゃないですけど。決めるんですか?」 「決めとかないと困るでしょ。俺が悪い大人だったらどうすんの? 効果は薄いらしいけど、奥の手があるって分かってるのとないのとじゃ大きな違いだから」 「そう、ですね。……セーフワードを設定しろなんて言われたの、施設を出てから初めてです」  施設とはダイナミクス性が判明してから入らされる、あの施設のことだろう。ダイナミクス性が判明するのは中学卒業から高校にかけての年代くらいだけど、この言い方だと八瀬が施設に行ったのはここ最近の話じゃないらしい。  大体の場合、ダイナミクス性は十五歳から二十歳になるまで毎年受けなければならない血液検査で判明する。ダイナミクス性は個人差はあれどほとんどがその年代に発現するので、政府が血液検査を義務付けている。  しかし、まれにダイナミクス性の発現が早く、中学に入学したくらいで分かる人間もいるらしい。Subだと分かるケースもあると言う。 ――言い方に含みがあるのは、本当に正しく偶然なわけじゃなく、悪意あるDomのコマンドやグレアを受けて……というケースがあるからだ。特に八瀬のように顔立ちが良く人当たりもいいSubは、道端でトラブルに巻き込まれることもありそうだ。わざわざ当人に聞く話でもないから聞かないけど。
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