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次の日の朝、昨日の出来事がまるで夢幻かのように、わたしは正美に戻っていた。
でも、今までとは違う。
わたしは亞里亞になって、亞里亞はわたしになって、色々なことがわかった。特別な一日で、大切なことを学んだ。もう、あのクラスにはいじめを起こらない。希望に満ち満ちて、教室に入ったわ。
いつもより勇気を出して、大きな声で「おはよう」って言ってみた。
目に入ったのは、机の上に並べられた腐ったパンだった。小さな虫も飛んでいたっけ。
先に教室にいた亞里亞は、満面の笑みでこちらに近づいてきたわ。
「昨日はありがとう。昨日やられた分、たっぷり仕返しさせてもらうからね。本当に、戻って良かった……」
びっくりよね。亞里亞、嫌がらせの準備なんかのために早く登校してたなんて。え? そこじゃない? とにかく、その日は今までで一番いじめられたわ。もちろん、パンも虫も食べさせられた。ケガもした。泣きながら、おばあちゃんの病院に行ったわ。
おばあちゃんに報告すると、おばあちゃんは何も悪くないのに、ただ謝っていた。「残念なことだね。正美ちゃん、ごめんね。おばあちゃんが悪かった。人の子に、期待しすぎていた」って。
おばあちゃんの乾燥した目尻に涙が溜まっていた。わたしはどうしたらいいのかわからなくて、黙るしかなかったわ。おばあちゃんは乾いた咳をしてから、わたしに微笑んだ。
「正美ちゃん、大丈夫。おばあちゃんがとっておきの魔法を使ってあげる。やさしい正美ちゃんが、もういじめられないように」
「……でも、もう大切なものがないよ」
「大丈夫。おばあちゃんはこう見えて、すごい魔女なんだから」
どんな魔法だったら、亞里亞やクラスメイトたちの醜い心を変えることができるんだろう。わたしの頭でどれだけ考えても、答えは出なかった。
でも、おばあちゃんのおかげで、本当にいじめはなくなったの。
亞里亞も、麗佳も、高田くんも、みんな死んだから。
おばあちゃんは自分の命を代償に、あの子たちの命を奪ったんだと思う。
亞里亞たちは、ひどい死に方だったわ。
十年前にニュースにもなっていたあの事故よ。
それがおばあちゃんの最後の魔法だった。
ええ、そうよ。
だからあなたが探していた大木の魔女――うちのおばあちゃんはもういないの。
これでわかったでしょ?
……昔話はここまでにしましょう。
今、この占いの館『Ebony Witch』の魔女は、わたしひとりだけ。
お目当ては、占いではないのでしょう?
見たらわかるわ。あのころのわたしみたいに、とっても不気味な顔をしているから。
さぁ、あなたは何を代償に……願いを叶える?
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