Ebony Witch~おばあちゃんの最後の魔法~

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 その日は、病室の窓からぼたん雪が見えた。  降り始めた雪は、病室の壁の色とよく似ていた。  だからかな、白い壁から冷気が伝わって、病室の温度を一気に下げたような気がしたの。 「おばあちゃん、寒くない?」 「大丈夫だよ、ありがとうね」  小学四年生だったわたしは、もう先が長くないおばあちゃんの身を案じていた。  おばあちゃんは、鎖骨の近くから点滴が繋がっていて、なんだか痛々しかった。「腕の点滴より効くんだって」なんて笑っていたおばあちゃんは、日に日にやせ細っていく。わたしは、大好きなおばあちゃんと、少しでも長く一緒にいたかった。冬だったから、陽が落ちるのは早い。帰り道が薄暗く、凍えるような風が吹いたとしても、それでもおばあちゃんと同じ空間にいたかった。    さっきまで降っていた小雨は、病室の角に置いたわたしの赤いランドセルを濡らしていた。ランドセルの塗装は剥げてしまっている部分がほとんどで、毛羽だった白い革が見えていた。理由は、経年劣化のせいだけじゃない。同じクラスの亞里亞たちが、サッカーボールみたいにして遊んでいたからだった。 「正美(まさみ)ちゃん、なにかあったのかい?」    わたしの心配よりも自分の心配をするべきだ。当時、わたしはそう思っていた。そんなわたしの心を見透かしたかのように、おばあちゃんは言った。 「私のことはいいの。お父さんには言わないから、話してみなさい」  そのあたたかい言葉に、つい甘えたくなってしまう。頼りたくなってしまう。自分の指を重ねて、悩んでいたと思う。おばあちゃんに、心配をかけてもいいのかな……って。 「いいから」  わたしの葛藤を振り払うかのように、おばあちゃんのやさしい声がした。おばあちゃんの声はとても不思議な力がある。やさしい声なのに力強くて、まるで樹齢千年の大木のような雰囲気があった。  わたしは喉をごくりと鳴らして、自分が置かれている状況について話した。 「――わたしね、クラスでいじめられているの」  
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