6人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「え、今日学校早退するの!?」
「うん」
結婚記念日当日。今日は私にとっても弟にとっても、もちろん両親にとっても特別な一日となる。だから今日は先生に事情を話して、弟ともども学校を早退させて貰うことにしたのだった。夜に帰ってくる父はともかく、母は夕方にはパートを終わらせて帰宅してしまうことになる。それまでに、あらゆる準備を終わらせておかなければならない。
せっかくのサプライズパーティなのに、準備している最中に母が帰ってきてしまったら台無しである。
「今日、お父さんとお母さんの結婚記念日なんです。だから今日だけは、特別なイベントを用意してあげたくて。でも、お母さんは夕方に帰ってきちゃうから……すみません」
病気でもなければ急な用事でもない。こんな理由で早退なんて怒られるかなと心配していた。が、先生が言ってきたのは、まったく別のことだった。
「その。……本当に、サプライズのためなの?お父さんとお母さんに、何か無茶な命令されたとかじゃないの?その……とっても厳しい人なんでしょう?」
村田淑子先生には、自分達の両親がどういう人なのかよく話してある。大手銀行でバリバリに働く厳格な父と、パートで働く母。母は私が生まれる前までは水商売をしていたこともあって、父との結婚は反対されていた。駆け落ち同然で東京まで出てきたこともあって、私達に頼れる親戚のようなものはいない。そして、私達の教育方針で両親は揉めることが非常に多い。
先生にはよく愚痴を聴いて貰っていたので、両親に何か言われたせいではないかと不安になってしまったのだろう。
「いえいえ、そんなんじゃないです。今回の企画、言いだしたのは私なんで」
何かトラブルがあったわけではないのだと、私は笑顔で先生に話した。
「むしろ、家族みんなでもっと仲良くなれるためにパーティをしようと思っただけなんです。せっかくの結婚記念日なのに、毎年あんまりお祝いできてなかったし。弟も賛成してくれたから、それで」
「そう?それならいいんだけど……」
「ご馳走とケーキを作るんだって弟も張り切ってて。私は料理とかは全然だけど手伝いくらいはできるし……食材の買い出しとかもしないといけないから。すみません、こんな理由でお休みしちゃって」
「いえ、それはいいのよ。貴女も貴女なりに、一生懸命家族のことを考えていて素晴らしいわ。弟さんと仲良しなのね」
「ええ、とっても!」
異性の兄弟なのでちょっと恥ずかしいところもあるが。それでも私にとって、弟は唯一無二の家族であるのは間違いない。えっへん、と胸を張ってみせると、村田先生はほっとしたように笑顔を見せたのだった。
「わかったわ。素敵なパーティになることを、先生も祈ってるわね」
「はい!」
理解のある先生で本当に良かったと思う。これで、私と弟も思う存分準備に専念できるというものだ。
最初のコメントを投稿しよう!