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香月の手際は良い。それでも、ケーキとチャーハン、チキン、スープが出来上がる時間はギリギリだった。
午後六時過ぎ。結婚記念日おめでとう!のカードを私がテーブルに立てかけたところで、がちゃり、と玄関の鍵が開く音がする。
「あら、いい匂いがするじゃない?」
いつものように派手な髪色のお母さんが顔を覗かせた。そして、テーブルの上に並べられた料理とカードを見て目を見開く。
「お母さん、結婚記念日おめでとう!」
私はお母さんに笑顔を向けた。
「サプライズで、私達でいろいろ料理とかプレゼントとか用意してみたの!……まだお父さん帰ってきてないけど……どうする?本当は家族みんな揃ってから食べた方がいいと思うんだけど……」
せっかくの結婚記念日なのだから、みんなでお祝いしたい気持ちはある。私がそれとなく匂わせたことに気が付いたのか気が付かなかったのか、母はうーんと、少し考えてから言ったのだった。
「別にいいわ、あの人残業でどうせ遅いでしょ。おなかすいたし、先に食べるわ」
「……そっか」
まあ、母はそう言ってしまうんだろうな、と思っていた。少しだけ残念な気持ちになりながらも、私は彼女の席に箸を並べ直す。
「おっけ、わかった!じゃあ、先に食べ始めててよ」
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