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「でもルネだってもうドイツ語も読めるもんね。英語とイタリア語なんてあっという間に習得しちゃったし。いまは何語を勉強してるんだっけ?」
「……リトアニア語とサンスクリット語」
正直に答えると、レオナルドは黒い瞳を見開き爆笑した。
「――馬っ鹿じゃない! 違う、間違えた。馬鹿じゃなくて、天才!」
「馬鹿にしてる?」
「違うよ、語学馬鹿って言ったの」
「ほらまた馬鹿って言った!」
ふたりの笑い声が賑やかな学生食堂の喧騒に重なる。
最初に出会ったときからレオは何ひとつ変わらない。この明るい笑顔を見るたび、レオがそばにいてくれてよかったとルネは常々思う。
「ルネってどうしてそんなに言語を習得するのが早いの? 記憶力がすごいのは知ってるけどさ、丸暗記というレベルでもないよね。何というかこう、身体に染み込む感じ」
レオナルドが自分の両手を胸に当て、しみじみと言う。どうやら身体に染み込む感じを表現しているらしい。
「……そうだね。説明が難しいけど、感覚的に、かな」
「感覚でそんなに理解できる?」
「根源を辿っていくと、元はすべてひとつだったと思うんだよ。そこを起点にして変化を追っていくと、ある程度予測がつくんだ。時とともに変わっていくものと、変わらないものと」
ルネの説明を聞いて、レオナルドはぽかんと気の抜けた顔をした。
「……まずその根源ってやつに、月並みの人間は辿り着けないんだけどね」
理解するのを諦めたのか、レオナルドは話題を変える。
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