眠り姫

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 正式名称エコール・ノルマル・シュペリュールは、リセの教授や学者の養成を目的とした知的エリート養成機関だ。エコール・ノルマルの学生はノルマリアンと呼ばれ、国家公務員と同様の身分を有し、学費が無料である上に給与まで支給される。  ルネがごく少数の優秀な学生しか入ることのできないエコール・ノルマル準備級へと進級できたのは、昨年度のコンクール・ジェネラルにおいて哲学級の最優秀栄誉賞を獲得し、学長の推薦を受けたためである。ルネはその推薦に快く応じた。  大学進学さえもためらっていたルネがエコール・ノルマルへの進学を志した理由は、ごく単純なものだった。エコール・ノルマルに入学すれば、学生でありながら高額な給与を支給されると聞いたからだ。  金はいくらでも必要だ。生きていくためには。  だがレオナルドの言葉で、はたと気づいた。主人がパリに腰を据えてから、すでに5年目に入っている。主人はそろそろ別の土地への移動を考えているかもしれない。  ――ジュネーヴ大学。スイスか。  悪くないな、とルネは思った。今夜、主人に話をしてみてもいいかもしれない。  放課後ルネはいつものように図書館で勉強をし、日が暮れた後に自宅へと帰った。通用口を開け応接間を通り抜けると、中庭が窓の外に広がる。  昨年の冬、ルネはこの屋敷の「大改造」を決行した。
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