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その翌週のこと。ルネが学校から帰宅すると、屋敷の前に黒塗りの高級車が止まっていた。
誰の車かはわかっている。アンリだ。
アンリは帰宅したルネの姿に気づくと、運転席からぱっと飛び降りた。
3年前の夏休み、南仏でともに過ごしてから、アンリは何の約束がなくてもこうしてときどきルネに会いに来るようになった。主に週末、車でルネを迎えに来て、外食や観劇などに連れ回す。
「おう、ルネ。お帰り」
アンリは小さく片手を上げ、帰宅したルネを迎えた。
――予感がした。いつもの太陽のような笑顔が、今日は少し雲の影に隠れている。
ルネは心を奮い立て、口元にかすかな笑みを浮かべた。
「……今日はどこに行く? この前言ってたチケットはシャトレ座だっけ? それともオデオン座? そういや新しく開店したカフェ・コンセールっていうのは――」
不自然に声が震えた。アンリは腕を組み、静かにルネを見返した。
「お前……なんでマリー=アンヌに会いに行かないの?」
(どうせ、その話だと思ったんだ)
ルネはすっと視線を落とした。
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