眠り姫

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「たしか……俺が20歳になってもまだ自分を一番に好きだったら、そのときにもう一度プロポーズしてね、って」 「マリー=アンヌらしい」  ルネの口元に、ようやくかすかな笑みが浮かぶ。ちらりとルネの横顔を確認し、アンリは目尻を緩ませた。 「……俺も20越えたし、そろそろ本気でプロポーズしてもいいかもな」 「アンリに渡すくらいなら、俺が先にプロポーズするよ」  言い返すと、アンリは大きな声を上げて笑った。 「勘弁してくれよ。お前が出てきたんじゃ決闘でもしないと勝負がつかないだろ」  そう言いながらハンドルを左に切る。もうマリー=アンヌの屋敷が近い。 「でもきっと……マリー=アンヌは俺たちを選ばないよ」  マリー=アンヌがいつも少女のような瞳で見上げる、その黒い影を思い出す。  これほど皆に愛されたマリー=アンヌの愛した人がヴァンピール(ヴァンパイア)だったなんて、いったい誰が思うだろう。  
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