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そして奥の窓際に、レースの天蓋が吊り下がった白い雲のような寝台があった。
美しい夢のような部屋――それなのに、透明な死の気配が静かに充満していた。
ルネ、と消え入りそうなか細い声が、その白い雲の中から聞こえた。
心臓が止まりそうになる。上手く動かない足をようやく進め、ルネは寝台の脇に立った。
柔らかな布団に埋もれるようにして、またひと回り小さくなった姿がそこにあった。
おとぎの国の眠り姫のようだった。瞼を閉じた途端、すっと永遠の眠りについてしまいそうな――
淡い水色の瞳がルネの姿を映し、目尻の皺が柔らかに緩んだ。
「……遅かったのね、王子様。あなたをずっと待っていたのに」
堪えきれず、ルネの瞳から涙がこぼれる。
どうしてもっと早く、もっと長く、そばにいてやることもできたのに。
差し出された手を強く握りしめる。
白く折れそうに細い、冷たい指先。それを両手の中に包み、頬に押しつけた。
「ごめん……ごめんね、マリー=アンヌ。……本当はずっと、会いたかったのに」
「……わかっているわ、ルネ。……別れに向き合うのは辛いことだわ」
「別れる、なんて――」
流れ続けるルネの涙を、細い指先が優しく拭う。
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