眠り姫

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 幾人か持参金なしでもいいと言う申し出があったわ。でも父は悩んでいたの。持参金も持たず後妻として家に入れば、先妻の息子や親族からひどい扱いを受けることもあったのよ。他に候補に上がっていた貿易商の男性や金融業を営む男性も、街であまり良い評判を聞かないからと。  そのときね、父の古い学友が声をかけてきたのよ。その方が私の嫁ぐことになる、モンテスキュー伯爵だった。  父と伯爵は若い頃に同じ寄宿舎で過ごした同級生でね、大人になってからもずっと付き合いが続いていたの。私の実家にも度々いらっしゃって、小さな頃からよく存じていたわ。温和で、博識で、誰もが認める人格者。本当に立派な方だったのよ。親友の娘である私のことを、実の娘のように可愛がって下さっていたの。  伯爵は父が私の嫁ぎ先のことで悩んでいると知って、こう仰ってくださった。もし不安があるところへ嫁がせるくらいなら、自分が娘さんを引き受けよう、って。伯爵は奥様を亡くされたばかりで、跡継ぎとなるお子様もいらっしゃらなかったから。  父は驚いたわ。まさか親友が自分の娘をもらうなんて夢にも思ってもみなかったのよ。それもフランスで最も有名で裕福な名門貴族のモンテスキュー家だもの。  戸惑う父に伯爵はこう言ったそうよ。君は私の家柄がどうだということではなく、ひとりの人間として向き合い、私の良き友人になってくれた。私は何度も君に助けられたから、つぎは私が君を助けてやりたい。君の娘さんには、何ひとつ不自由な思いはさせないと約束する。実の娘のように大切にするから、と。
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