眠り姫

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「どうやら彼らは街に警察の捜索が入って以来、血を吸っていなかったらしいの。血が足りないと、ヴァンピールは本来の力を発揮できない。見た目の若さも失うわ。仲間の中で運良く彼だけがたった一度きり、空間移動できる力が残っていたそうよ」  ようやく、自分の存在を否定し続ける主人の思いがわかった気がした。  人々に憎まれ死んでいく仲間を残し、ただひとり生き残った自分。そうしてまで生き続けることを罪そのもののように感じていたのだろうか。  そのときふと、ルネは窓辺に並んだ小さな置物に目を留めた。それは3年前、ルネがニースの土産物屋で、マリー=アンヌのために買ったサントン人形 (素焼きの人形に彩色したプロヴァンスの工芸品)だった。  生まれたばかりのキリストを抱く聖母マリアと、ナザレのヨセフと、子羊。  気恥ずかしくてマリー=アンヌには言わなかったが、聖母マリアはマリー=アンヌ、ヨセフはオーギュストで、子羊はルネのつもりだった。  三つの人形は輪を描くように、お互いを向いて飾ってあった。――まるでひとつの家族のように。 「……マリー=アンヌは、自分もヴァンピールにしてほしいってオーギュにお願いしたことはないの?」  ずっと心に抱いていた疑問だった。恐る恐る口にすると、マリー=アンヌは、そうね、と寂しげな笑みを浮かべた。
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