眠り姫

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「――彼と同じ時間(とき)を生きたかったわ。永遠に美しいあの人に、醜く年老いていく私を見られることが何よりも辛かった。身分も財産もすべて投げ出して、ただあの人とふたり、ともに生きていこうと思ったときもあったの。でも……その望みを捨てても、この世界から彼を守りたかった」  そう口にした瞳に、強い覚悟の光が灯る。その光が、(にじ)み出した寂しさを瞬く間に塗り替えた。 「すべてを投げ出せば、私には何も残らない。あの人が困ったときに、何もしてやることができないわ。――ルネ、この世界で生きていくためには、どうしてもお金が必要よ。何か問題が起きたとき、速やかに解決するためには力も必要。だからこそ私は、〈モンテスキュー伯爵夫人〉を続けていくことを選んだ。そうでなければ、あの人をこの世界から守れないと思ったからよ」  それはルネが初めて目にする、(たくま)しく悲壮な眼差しだった。 「同じ時の中に生きるだけが、彼を愛する方法ではないわ」  だがルネは頑なに首を振った。  ――そうやって愛する人を、自分だけが死んでいくなんて。ともに永遠に、そばにいることだってできたのに。 「ルネ、これは私の最後のお願いよ。これからは私の代わりに、あの人を守ってあげて。こんなことはあなたにしか頼めない」  最後の頼みなどと言われても、素直に受け容れられるわけがない。ルネは布団に顔を伏せ、(うめ)くように泣きはじめた。
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