110人が本棚に入れています
本棚に追加
「――彼と同じ時間を生きたかったわ。永遠に美しいあの人に、醜く年老いていく私を見られることが何よりも辛かった。身分も財産もすべて投げ出して、ただあの人とふたり、ともに生きていこうと思ったときもあったの。でも……その望みを捨てても、この世界から彼を守りたかった」
そう口にした瞳に、強い覚悟の光が灯る。その光が、滲み出した寂しさを瞬く間に塗り替えた。
「すべてを投げ出せば、私には何も残らない。あの人が困ったときに、何もしてやることができないわ。――ルネ、この世界で生きていくためには、どうしてもお金が必要よ。何か問題が起きたとき、速やかに解決するためには力も必要。だからこそ私は、〈モンテスキュー伯爵夫人〉を続けていくことを選んだ。そうでなければ、あの人をこの世界から守れないと思ったからよ」
それはルネが初めて目にする、逞しく悲壮な眼差しだった。
「同じ時の中に生きるだけが、彼を愛する方法ではないわ」
だがルネは頑なに首を振った。
――そうやって愛する人を生かし、自分だけが死んでいくなんて。ともに永遠に、そばにいることだってできたのに。
「ルネ、これは私の最後のお願いよ。これからは私の代わりに、あの人を守ってあげて。こんなことはあなたにしか頼めない」
最後の頼みなどと言われても、素直に受け容れられるわけがない。ルネは布団に顔を伏せ、呻くように泣きはじめた。
最初のコメントを投稿しよう!