新月と太陽

3/18
前へ
/257ページ
次へ
「あんたは馬鹿だよ! 変な正義感なんか捨てて、寂しいって認めればよかったんだ! 死んだ後に後悔なんてしても遅い! すべてが手遅れだよ!」  見開いた主人の瞳から、はらはらと涙が流れ落ちる。 「オーギュが頼めば、きっとマリー=アンヌはヴァンピールになった! あんたを誰よりも愛しているから! その言葉をずっと待っていたのかもしれないのに――」  主人は顔を覆い、(あらが)うように首を横に振った。長い指の隙間から、低い嗚咽(おえつ)が漏れる。 「……できないんだよ。あの美しい人を、私のような化け物に」 「だからってそうやっていつまでも泣いているつもりかよ!」  ルネは乱暴にその身体を揺さぶった。 (これじゃいつまで経っても(らち)が明かない。平行線だ)  主人の上から飛び降り、床に転がっていたナイフを掴む。その先端を自分の首筋に突き立てた。  主人はソファを転がり落ち、慌ててルネに飛びついた。互いにナイフを奪おうと、床の上で揉み合いになる。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加